おっぱいテレパシー 〜はじめての外出〜

 退院してから、初めて外出した。

 出血が多かったので、「産後の床上げまでは」と父母は思っていたようだが、実家に里帰りしてからのパジャマ生活にも飽き飽きし、着る服といえばすでに持っているマタニティのみ(あまり買わずに過ごしたため、見るのも飽きた)、ほとんど一日中、新生児からの刺激以外無しの状態を打破したいと母に訴えたら、「じゃ、ちょっとだけ、買い物にでも行く?」と言ってくれたのだ。
 
 おっぱいをあげ、これまでの経験からあと2時間は寝てくれるだろう…と時間を読み、おむつとさ湯を入れたほ乳瓶を父にあずけ、「何かあったら携帯に電話して」と母が運転する車で出かける。ジーンズショップでジーンズをチャッチャカチャーと試着しまくって、さっさとどれでもいいやととりあえず2本買い、デパートで新生児用の靴下と私用のトレーナーやパーカーを買い、さらに生鮮売り場を駆け抜けるように母と夕飯の買い物をした。
 
 いつりんごが大泣きして、父がヘルプを求めて来るか分からないと思うと、とにもかくにも気の休まる暇がない。出産時に裂けて縫合した部分の痛みをこらえながら、店内のあちこちを周りの人の迷惑もかえりみず、小走りで買い抜いたのだが、
あぁ〜ぅ、ホント疲れたぜっ。

 そして、「ふぅーと」一息、生鮮売り場で買った品物をビニール袋に詰めていたときのことである。おっぱいが痛みをともなって張り始めた。

 「おかーさん、おっぱいが痛くなってきたわぁー」と母に言うと、「それ、きっと、りんごが呼んでいるのよ」なんて母が言う。そしたら、本当に呼ばれた。携帯が鳴ったので見ると、や・は・り! 電話をかけてきたのは、父だった。

 すごーい!! 「おっぱい、張ったなあ」と思った瞬間に父から電話がくるなんて! きゃぁーん、わぉーっ! りんごと私はおっぱいでつながっているぅー!
 
 家に帰ったら「りんごが口をもごもごしてるから、明らかにおっぱいなのに、オレはおっぱい出やしないから、やんなっちゃったよ」なーんて、父が半べそをかいていた。
 
 父には申し訳なかったけど、なーんか感動的だった。離れていても、おっぱいテレパシーで、りんごと私は通じ合えるんだなあーって。

 これって、明らかにこれまでの成果だよね? 
 あたし、ちょびっとママとしての自信がついたかも?