シロアリの女王様

 一日中お腹が張っていて、ホントにキツくて、ついに薬を飲んだ。
 お腹のこと以外なにも考えられない状態だったのだ。
 こういう日に限って夫ちゃんの帰りは遅かったりする。

 自分が元気なときは「もう帰ってきちゃったの? まだ一人の時間を楽しみたかったのに」なーんて思ったりするくせに、こういうシンどい時は誰かにこのツラさをわかってほしくて「はやく帰ってこい、このやろ〜!」と思うんだから、私ってば本当に勝手だ。

 帰ってくるなり、とっつかまえて、と自らの苦しみを訴えることにした。
 「ねぇねぇ、ほんっっっっっっっっっっとに、お腹が重くて苦しい!!」
 しかし、返ってきた言葉は非情だった。
 「”重い”っていうの、聞き飽きちゃったんだけど?」

 そりゃぁさぁー、日々お腹が大きくなってるんだから、毎日同じようなことばっかり言ってるのかもしれないけどぉー、今日のは尋常じゃない張りんだんもーんっ! そう私が叫んだら、お風呂あがりに、妊娠線予防クリームをお腹に塗ってくれた。

 「あーぁ、はやく人間に戻りたいよぅ〜」
 「今は人間じゃないわけ?」 
 「人間じゃない。今はメスって感じだ」
 すると、夫ちゃんはクスっと笑って、「じゃあ、シロアリの女王様と同じだな」と言う。
 「シロアリの女王様?」
 「シロアリの女王様は90パーセントが子宮なんだよ」

 ひぇ〜、シロアリの女王様ってそんな身体してんのか。なぜか今の私の気分に近いせいか、親近感がわいてしまう。「女王様」なのに、楽じゃないのねぇ〜。

 夫ちゃんによると、シロアリのオスは全体の1パーセントしかいなくて、あとは全部メスなのだそうだ。私は働きアリはみんなオスなのかと思っていたのだが、働きアリは子どもは産まないが、すべてメスなのだという。

 シロアリの世界は、女の世界。ぎゃ〜、ぎょえぎょえっ!
 
 私は、人間に生まれてよかったな、ホント。